人生の絵を描く

ある人は90歳過ぎた女性。独身。
遠く離れた場所に兄弟はいるが、
交流が無く、ひとり老人ホームに暮らす。
楽しいことがある反面、寂しさ、孤独、色々ある。
体の不自由さからくる弱さもある。

別の年老いた女性。
子供はいるものの、
結婚して遠くに住んでいるため一人暮らし。
夫に先立たれて、寂しいと訴える。
生きることを辞めるわけにはいかない。

働き盛りの人にも別の悩みがある。
子供を育て、生活に追われる毎日。
働くことから逃れられない。
生きている今の環境を、
仕事を捨てる訳にはいかない。

どんな状況下でも楽しく過ごすことが一番。
それは分かっているが、
実際のところ簡単ではない。

「人間、苦しみに遭遇した時どう対処すればいいのだろう?」
 と考えていたとき、偶然バス停で出会ったお年を召した女性から、
 次のような答えが返ってきた。
「人生の絵を描けばいいのよ」
「死んだ母がいつもそう言っていたの」
「昔の人は学こそ無かったけど生きる知恵はいっぱいもっていたと思う。」
 とも

苦しい事があったにせよ、その場面を頭の中で絵すれば、
事は重大であっても、ちっぽけなものに見えてくるというわけだ。
嬉しいとき 悲しいとき さびしい時、
それぞれが一コマの絵に集約される。

花-山中利夫
(花 山中利夫)

私の人生を絵にしたら・・・
結婚の時は花。
出産の時は笑顔いっぱいの家族の肖像。
苦しくて不安だった時は・・・
ムンクの叫びのように自分の内面を絵にするだろう。

人と争ったら?
人と心が通わない時は?
希望が見い出せない時は?

イメージするだけで人生の美術館が出来上がる。
それにしても、今日はとてもすばらしい出会いがあったものだ。

頭の中で組み立てる絵

どうやって、絵を頭の中で組み立てるのか。
ただ言葉だけで表現した紙をべたべたと張った個展を
1960年代初期に開催した人がいた。

オノヨーコ

絵は視覚に訴える物というのが一般的な見解ではあるが、
この人の表現は違った。
言葉を頼りに何かを創造し頭の中で組み立てるのだ。
実はこのタイトル、書店で目にして手に取った本だった。

オノヨーコ著 淡交社 

思わず本の中身をめくった。
絵を頭の中で組み立てるための指示が書いてあるだけ。
絵という対象物で見る側を縛るのではなく、
頭で創造させる自由を与えていた。
凄い美術書。
思わず買ってしまった。
あれから12年たった今も大切にしている。

空

新聞にオノヨーコの記事が掲載されたことがあった。
戦後の苦しい時期、空を見ていたという。
空の表情は幾通りも変化する。
これを”空のコレクション”と表現していたが、
彼女の言葉には創造力を駆り立てる力がある。
オノヨーコという人は偉大な芸術家だと思った。