芸術療法

ある女性と話していたとき、いきなり涙を流しはじめた。
過去の悲しい出来事を思い出したからだ。
身内を失った悲しみは、時間が経過しても癒えるものではない。

 会話のやりとりの中ではっきりと覚えていることがある。
「ボタニカルアートを描き始めました。
 習い始めて日は浅いのですが、
 色・ 植物の形の美しさに心が和み、気持ちが落ち着きます」と
 描くという行為が、心の安定に役だっている。
 その時、漠然と思ったものだ。

昔”セルフコントロール”という本がベストセラーになった。
池見酉次郎も精神科医として芸術療法を取り入れている。
患者の描いた絵を通して、その人の内面を把握し治療していくというものだ。
言葉で表現できないこと、やり場のない自分の内面・感情を絵(形)にする。
そこに達成感が生まれる。
描いた本人も形を通して自己を客観視できる。
これぞ芸術(創作)の力?時々思う。
この芸術療法もルーツはユングなのだろうか?

花
(KODAK DC4800 ZOOM AUTO)

C.G.ユング・・・あの一説が思い出される。

心は昨日や今日できたものではない!
その年齢は何百万年を数える。
しかし個人の意識は、多年生の地下茎から生長し、
季節にあった花と果実をつける枝にすぎない。・・・・
以下略す。

芸術の効用

私の手元に、”C.G.ユング記録でたどる人と思想”
ゲルハルト・ヴェーア著 安田一郞訳 青土社刊
と言う本がある。
精神科医であり心理学者でもある
C.G.ユング(カール・グスタフ・ユング)について書かれたものだ。

この本にはたくさんの絵(錬金術の図、宗教画、東洋画)もさることながら、
ユングが描いた物もたくさん掲載されているからおもしろい。心がおどる。
その中で曼荼羅 (サンスクリットで円という意味。)について
触れられた箇所がある。
マンダラ模様の起源は何千年も前のこと。
ユングはある時期毎朝マンダラを描いた時期があった。
患者にもマンダラを描かせている。
 ”もし、マンダラの絵が自発的に生まれたならば、
 すなわち模倣されたものでなければそれは統合的に作用し、
 それゆえ治療作用がある”
とユングは指摘している。

マンダラ
旅の土産物です。

医者であり科学的な思考をするユングが
患者を治療するにあたって、
解決の糸口を西洋のみならず東洋にまで目を向けたのはなぜなのか?
自分の学問の領域を取っ払って、
芸術・宗教の世界にまで足を踏み入れたのはなぜなのか?
専門的なことは分からないが、
絵画(芸術)も心身の健康に一役買っているのだと解釈した。
”芸術に効用あり”などと訴えたくなるのは、
芸術をひとりでも多くの人に愛してもらいたいと思う
こちらの身勝手な思いこみか。
芸術愛好家であるが故の・・・。