ホセ ルイス クエーバス

横長い黒く印刷されたエッチング。
しかし、よく眺めると5 6人が好き勝手なポーズをとりながら動いてる。
剣を持つ者、象の鼻のように首が長くなった裸の女。
そして、おっぱいとおしりがやたらに大きい。
背中に羽を持つ者・・・天使ではない。羽は自由の象徴?
誰かに抵抗するかのように座り転げる様にこちらをみる女。
浮遊した者・・・シャガールの絵でよく目にする光景。
極限状態の中、人間誰彼問わずひと皮むけば皆裸。
表情は哀しげではあるがどこかユーモラス。
眺めれば眺めるほど、スポットがあてられた人から目が離せない。

購入した作品は”暗い部屋”と”戦争”。
どちらも同じサイズ。
左右に並べてパッと目を引くのは前者。
多くの人物があちこちに散らばって、広い視点で描かれている。
それに対して”戦争”は狭い視点の描写。
まるで拡大鏡を用いて人々をみている。そんな錯覚に陥る。
苦しみ抜いて購入した絵も掛けて1週間もするともう仲良しになっている。
”この絵はねえ、、。とても慈悲深い。
一言でいえば人間愛を表現していると思う。”
勧めたギャラリストと自分の間に信頼関係が芽生えてる。
付き合ってじわりじわりと良さがにじみ出てくる。
これが名画ではないだろうか。

有名な人の作品だからとか、値段が高いから良いとは限らない。
投資感覚で選べば、絶対良い絵には巡り会えない。

それにしてもクエーバスって、
どんな人生を歩んできた人なのか興味は尽きない。
この人の油彩は見たことがない。
おそらく版画が得意なのだろう。

あらためて小学生の息子が描いたドライポイントの下絵を眺めてみる。
この子も版画が好きなのか・・。
自分の子供を絵描きに見立てる身勝手な親。
あっこれは余談です。

娘の机の斜め前に掛けたクエーバス。
”この絵とてもいいと思わない?”と私。
”いいかどうかは解からない。でも、凄いという事は解かる。”と娘。
机のまん前には彼女のお気に入りの
4号の油絵、人物画、”儚き夢”これがまたいい。
さすが羽禰田さん。
並べて掛けてもひけをとらない。・・・・・・・・・・・大満足!

どら焼きの改造

さてここでおやつの時間だよ。
市販のどら焼きの間に
クリームチーズ、もしくは抹茶アイスをはさんで食べてごらん?
おいしいから。

絵画購入の楽しみと苦しみ

ホセ・ルイス・クエーバスをご存じですか。
メキシコの有名な画家でクエーバス美術館もあるとのこと。
今から約12年ほど前、ギャラリーの個展案内の葉書が届いた。
葉書に写された絵(版画)。その作者がクエーバスだった。
テーマとするものは人間模様。

クエーバス

この人の絵しか見てないせいもあるだろうが、
娘がその葉書を見て貼り絵を作った。
確か小学2年生の頃だと思う。
子供の作品に、ハッとした。
まねした作品がよいと、こんなにも良いものができるのかと。
ちょっとばかし親バカ。
葉書と貼り絵。それを比べてとても満足していた。

娘の貼り絵

しかし、それから2年くらいたったある日曜日の夕方、
子供達の食事を作っている時、1本の電話がかかってきた。
”クエーバスの版画が京都に行ってしまう。”
最初、相手の意図がわからなかった。
要は買う・買わないの選択をせまられていたたわけで、
とてもつらい経験をした。金額も半端ではない。
なぜ今頃私に電話かけるんだ?現状に満足しているのに。
なぜだ?胃がきりきりといたむ。置くスペースも無いのに。
結局、絵を相手の家に保管するという形で購入することになった。

世界と日本の絵画。
この人の作品を前にすると
今の日本のそれが陳腐なものに見えるのはなぜなのか。
当時購入した絵はよかったが、短期間かけては見たものの、
ほとんどは箱入りのまま、保管したままだった。
かつての胃のいたさを思い出すのがいやだった。

企画ギャラリーとのつきあい、
こちらから積極的に好きなものを求め、
購入できた時の喜びはひとしおだが
その逆はつらい。

しかし、そのクエーバスを手に入れて良かったと思う出来事があった。
今年の4月久しぶりにギャラリーを訪ねたら、
あのクエーバスの衝撃的な作品があった。
2枚、”暗い部屋”と”戦争”。
”戦争”というタイトルの作品は、ピカソの”ゲルニカ”を思わせるもの。
どちらもエッチング。人間たちの描写がなんともいえない。
人間をモチーフにした光のあてかた。
1980年の作品より、1990年に制作された
これらの作品の方がずっと良い。
2枚のうちの一つ、”暗い部屋”の購入を決めた。

自宅のどの場所にかけるか思案する間、
画廊に預けていたが、そろそろ引き取ろうとした時、
”戦争”という絵の方も購入を勧められた。
短期間に2枚も。
私個人は、そこまでの所有欲はないのになぜ?
昔もこういう駆け引きはなんどもあった。
当時の苦しさがよみがえる。
ほかのお客さんになぜ売らないのか?
2枚のうち1枚を選択するということですべては終わったこと。
だけど、夜な夜なかかる電話。
売り主も買い主もこれでは共倒れ。
”絵を大衆化せねば!”
”芸術愛好家をふやさねば!”
頭の中でこの思いがますますふくらむ。
爆発寸前!

幸せだったのは不本意ながら購入した2枚目の絵。
これは最高のものだった。
部屋にかけて思った。