絵画購入の楽しみと苦しみ

ホセ・ルイス・クエーバスをご存じですか。
メキシコの有名な画家でクエーバス美術館もあるとのこと。
今から約12年ほど前、ギャラリーの個展案内の葉書が届いた。
葉書に写された絵(版画)。その作者がクエーバスだった。
テーマとするものは人間模様。

クエーバス

この人の絵しか見てないせいもあるだろうが、
娘がその葉書を見て貼り絵を作った。
確か小学2年生の頃だと思う。
子供の作品に、ハッとした。
まねした作品がよいと、こんなにも良いものができるのかと。
ちょっとばかし親バカ。
葉書と貼り絵。それを比べてとても満足していた。

娘の貼り絵

しかし、それから2年くらいたったある日曜日の夕方、
子供達の食事を作っている時、1本の電話がかかってきた。
”クエーバスの版画が京都に行ってしまう。”
最初、相手の意図がわからなかった。
要は買う・買わないの選択をせまられていたたわけで、
とてもつらい経験をした。金額も半端ではない。
なぜ今頃私に電話かけるんだ?現状に満足しているのに。
なぜだ?胃がきりきりといたむ。置くスペースも無いのに。
結局、絵を相手の家に保管するという形で購入することになった。

世界と日本の絵画。
この人の作品を前にすると
今の日本のそれが陳腐なものに見えるのはなぜなのか。
当時購入した絵はよかったが、短期間かけては見たものの、
ほとんどは箱入りのまま、保管したままだった。
かつての胃のいたさを思い出すのがいやだった。

企画ギャラリーとのつきあい、
こちらから積極的に好きなものを求め、
購入できた時の喜びはひとしおだが
その逆はつらい。

しかし、そのクエーバスを手に入れて良かったと思う出来事があった。
今年の4月久しぶりにギャラリーを訪ねたら、
あのクエーバスの衝撃的な作品があった。
2枚、”暗い部屋”と”戦争”。
”戦争”というタイトルの作品は、ピカソの”ゲルニカ”を思わせるもの。
どちらもエッチング。人間たちの描写がなんともいえない。
人間をモチーフにした光のあてかた。
1980年の作品より、1990年に制作された
これらの作品の方がずっと良い。
2枚のうちの一つ、”暗い部屋”の購入を決めた。

自宅のどの場所にかけるか思案する間、
画廊に預けていたが、そろそろ引き取ろうとした時、
”戦争”という絵の方も購入を勧められた。
短期間に2枚も。
私個人は、そこまでの所有欲はないのになぜ?
昔もこういう駆け引きはなんどもあった。
当時の苦しさがよみがえる。
ほかのお客さんになぜ売らないのか?
2枚のうち1枚を選択するということですべては終わったこと。
だけど、夜な夜なかかる電話。
売り主も買い主もこれでは共倒れ。
”絵を大衆化せねば!”
”芸術愛好家をふやさねば!”
頭の中でこの思いがますますふくらむ。
爆発寸前!

幸せだったのは不本意ながら購入した2枚目の絵。
これは最高のものだった。
部屋にかけて思った。

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